ピラティスのレッスンや動画で、何度も出てくる言葉があります。「おへそを背骨に近づけて」「お腹を引き込んで」。でも、正直なところ、何をどうすればいいのか、よくわからない。そう感じている人は、実はとても多いのです。
お腹を力いっぱい凹ませると、息が苦しくなる。お腹に力を入れると、肩や首まで固くなる。結局、「これで合っているのかな」と思いながら動いている——。
今日は、「お腹を引き込む」がわかりにくい理由と、その感覚をつかむための練習をお伝えします。結論から言うと、ピラティスの「引き込み」は、お腹を凹ませることではなく、お腹の奥の筋肉がそっと働いている状態のことです。だから、力いっぱいやろうとするほど、わからなくなってしまうのです。
※腰や背中に痛みがある場合、妊娠中や産後の場合は、医療機関や専門家に相談してから行ってください。
「引き込む」とは何をしているのか
お腹のいちばん奥には、お腹をぐるりと囲むコルセットのような筋肉があります。この筋肉が働くと、お腹まわりが内側から少し締まり、体の中心が安定します。
ピラティスで「お腹を引き込む」と言われるのは、この奥の筋肉を働かせて、体幹を安定させるためです。体幹が安定していると、腕や脚を動かしても、腰や背中がぐらつかず、動きがきれいに、そして安全になります。
ここで大切なのは、この筋肉は強い力で働く筋肉ではないということです。ずっと働き続けて体を支える、持久力のある、静かな筋肉です。だからこそ、力いっぱいお腹を凹ませる感覚とは、まったく違うのです。
「引き込む」がわからなくなる3つの理由

1. 力を入れすぎてしまう
「引き込んで」と言われると、多くの人はお腹を思いきり凹ませます。すると、表面の腹筋や、お尻、肩にまで力が入り、奥の筋肉の感覚がわからなくなります。必要なのは、全力の2〜3割くらいの、ほんのわずかな力です。
2. 息を止めてしまう
お腹に力を入れると、つい息を止めてしまいがちです。でも、息を止めると、お腹の中の圧力が高まり、奥の筋肉がうまく働きにくくなります。ピラティスでは、呼吸を続けながらお腹の奥を働かせることが基本です。
3. 目に見えない筋肉だから
腕の筋肉なら、力こぶとして見たり触ったりできます。でも、お腹の奥の筋肉は、外から見えず、動きも小さいため、感覚をつかむのに時間がかかるのは当然のことです。
お腹の引き込みをつかむ3つの練習

練習1:咳払いで奥の筋肉を探す
あお向けでひざを立て、両手の指先を腰骨の内側、少しお腹寄りに当てます。そのまま軽く「コホン」と咳払いをしてみてください。指先の下で、ぐっと押し返してくる感覚があれば、それがお腹の奥の筋肉が働いた感覚です。この感覚を覚えておきましょう。
練習2:息を吐ききって、そのまま保つ
同じ姿勢で、口から細く長く息を吐いていきます。最後まで吐ききったとき、お腹が内側にそっと引き寄せられる感覚があるはずです。次に、その感覚を少しだけ残したまま、鼻から息を吸ってみます。お腹を完全にゆるめず、胸や背中に息を入れるイメージです。これが、呼吸をしながらお腹の奥を働かせる練習です。
練習3:ズボンのファスナーを上げるイメージ
立った姿勢で、恥骨のあたりからおへそに向かって、きついズボンのファスナーを下から上へ閉めていくようなイメージを持ちます。お腹を前から凹ませるのではなく、下から上へ、内側に引き上げる感覚です。お尻や肩に力が入っていないか、鏡で確認しながら行いましょう。
引き込めているかを確かめるポイント
- 呼吸が続けられている:息が止まっているなら、力が入りすぎています。
- 肩や首がリラックスしている:肩がすくんでいたら、いったん力を抜きましょう。
- お尻に力が入っていない:お尻をぎゅっと締めていたら、奥の筋肉ではなくお尻の筋肉が働いています。
- お腹が板のように固くなっていない:適度に締まっていて、柔らかさも残っているのが理想です。
なぜ「感覚」から始めるのか
ピラティスの動きを、回数や形だけを目標に行うと、本来使いたい筋肉ではなく、ふだん使いなれた筋肉で代わりに動いてしまうことがあります。たとえば、お腹の奥ではなく、首や腰の力で体を持ち上げてしまう、といったことです。
そうなると、ピラティスの効果を感じにくいだけでなく、首や腰に負担をかけることにもなりかねません。だからこそ、動きを増やす前に、お腹の奥の感覚をつかむことが大切です。感覚がつかめると、同じ動きでも、体の使われ方がまったく変わってきます。
最初からわからなくても、心配はいりません。何度もくり返すうちに、ある日ふっと「これか」と感じる瞬間が訪れます。その瞬間を楽しみに、焦らず続けてみてください。
日常生活で練習する
お腹の奥の感覚は、ピラティスの時間だけでなく、日常の中でも練習できます。
- 歯みがきの間:立ったまま、息を吐きながらお腹の奥をそっと働かせます。
- 信号待ちのとき:ファスナーを上げるイメージを思い出します。
- 重い物を持つ前:息を吐きながらお腹の奥を働かせてから持ち上げると、腰の負担を減らす助けになります。
引き込みが身につくと、何が変わるのか
お腹の奥の感覚がつかめてくると、ピラティスの動きが変わるだけでなく、日常の体の感じ方も変わってきます。
たとえば、立っているときに腰が楽になる。お腹の奥が体を支えてくれるので、腰の筋肉ばかりががんばる必要がなくなるからです。また、座っている姿勢が崩れにくくなる、階段を上るときに体が軽く感じるといった変化を感じる人もいます。
さらに、お腹の奥の感覚は、呼吸の深さともつながっています。息を吐ききる練習を続けるうちに、呼吸がゆっくり深くなり、気持ちが落ち着く時間が増えたという声もあります。
「引き込む」という一つの感覚が、姿勢、動き、呼吸と、体のさまざまなところにつながっていく。それが、ピラティスがこの感覚を大切にする理由です。焦らず、少しずつ育てていきましょう。
よくある質問
Q. ずっと引き込んでいないといけない?
ずっと強く引き込む必要はありません。動きの中で、体を支える必要があるときに、そっと働かせるくらいで十分です。
Q. 呼吸が苦しくなります。
力を入れすぎているサインです。全力の2〜3割くらいまで力を抜いて、胸や背中に息を入れることを意識してみてください。
Q. レッスンに通ったほうがいい?
感覚がどうしてもつかめないときは、インストラクターに直接見てもらうと、短い時間でわかることがあります。
Q. 立っているとき、どのくらい意識すればいい?
立っている間ずっと意識する必要はありません。ふと思い出したときに、お腹の奥をそっと働かせてみる。それをくり返すうちに、意識しなくても体が覚えていきます。
まとめ:「引き込む」は凹ませることではない
- お腹の引き込みは、奥の筋肉がそっと働いて体幹を安定させること
- 力の入れすぎ、息止め、見えない筋肉であることがわかりにくさの理由
- 咳払い、息を吐ききる、ファスナーのイメージで感覚をつかむ
- 呼吸が続く、肩やお尻がリラックスしているかで確かめる
- 動きを増やす前に、感覚をつかむことが大切
今夜、あお向けで咳払いをして、指先の下でお腹の奥が押し返してくる感覚を探してみてください。その小さな感覚が、ピラティスのすべての動きの土台になります。

